「イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由」で、イノダコーヒ三条店で店長を務めていた頃の猪田彰郎さんが俳優・高倉健さんとのエピソードを紹介されていました。
高倉さんとのやりとりは、単に「人気俳優と会った」といったミーハーな出来事ではありませんでした。
仕事に対する猪田さんの意識を確立させた衝撃的な体験だったそうです。
同書の82~85ページから抜粋して紹介します。(とても興味深い本ですよ!面白いです)
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高倉健さん東映の撮影の際に来店 猪田さんは前日からワクワク
高倉さんとのエピソードを、猪田さんは
「目標になる人をつくる。仕事はなんでも一生懸命ひたむきに続ける」
というタイトルで始めています。
コーヒー人生70年。振り返ったら苦労の連続でしたけど、素晴らしいこともたくさんありました。
その中でもとりわけ印象深いのは、高倉健さんとの出会いです。
太秦にある、東映の撮影所で撮影があるときは、毎日のように朝晩、三条店に来てくれてはりました。
朝、一人でいらっしゃって、カウンターの窓際の指定席に座り、スポーツ新聞を読まれる。
健さんはミルク多めで、砂糖なし。私しか出せへん味で、お迎えします。
高倉さんが来ると考えると、猪田さんは前日の豆の仕込みからワクワクしたそうです。
コーヒーの豆は前日に煎って、一日寝かせるのですが、何百キロと大汗をかきながら一生懸命焙煎していると、ふと、「健さん、明日おいでになったら、コーヒーの味をどう思わはるやろな」と思い浮かびます。
するともう、なんや心がワクワク。私がワクワクして煎りはじめると、豆も喜んできよるんです。
心を込めて焙煎した豆を使ったコーヒーを出すと、高倉さんにもその心が通じるようです。
言葉での話をしなくても、心の中で会話がありました。
その豆で淹れたコーヒーをお出ししますとね、健さん、こうですよ!
カップをもったと思ったら一気にぐーっときれいに飲み干して、
「ああ、イノダさん、おいしいですねぇ。もう一杯ください!」
このひと言。このひと言が私にずっと勇気をくれました。
お話ししないときでもね、あの目でね、映画の中みたいなあの静かな強いまなざしで私を見はるでしょ、私も見つめ返しますでしょ。
「今日もおいしいの、お願いしますよ!」
「はいっ!まかせてください!」
心の中で会話させてもらっていました。
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健さん「どうやってこの味を維持しているのですか?」仕事への意識を再認識
高倉さんは、閉店後にお店を訪れることもありました。
その時の会話は猪田さんの心に強く残っています。
健さん、夜はマネージャーさんから電話があって、閉店後においでになりました。そのときは窓際とは反対側が、指定席。
一対一でおしゃべりさせてもらった時間は、いい思い出です。
あるとき健さんがこうおっしゃいました。
「ぼくはもう長いことここに来ていますけど、全然味がかわりませんね。どうやって、この味を維持されているんですか?」
そこで私はこうお答えしました。
「ただただ一生懸命やっているから、味が保てるんやとおもいます」
そしたら、どうおっしゃったと思います?
「そうですね!やっぱり仕事は一生懸命やらないといけませんね」と。
高倉さんの言葉を受け、猪田さんは仕事への意識を再認識したそうです。
まさに同じ思いです。でもね、健さんのその言葉は重みがすごかった。
もう、ぐーっと心の中にしみこんできて、「一生懸命っていう言葉には、なんぼでも上があるんやなあ」としみじみ思いました。
その言葉を聞いて以来、私の心意気が変わりました。もう、怠けようと思っても、怠けられません。健さんのその声が聞こえてきますからね。
人生やっぱり、目標となる人がいると、違います。
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