「イノダコーヒ三条店」で27年間初代店長を務めた猪田彰郎さんは、イノダコーヒ本店のコーヒーよりもすっきりした味わいをつくりたいと考えていました。
 
そこで考えたのが、本店よりも短い時間で濾すこと。


 
そのため猪田さんは、お湯を注ぐお玉の使い方や湯温にも研究を重ねました。
 
(このコンテンツは「イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由」26~27ページを参考にしています。とても面白い本です!)


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独自の注ぎ方「落とす」でなく「ひっくり返す」

短い時間でコーヒーの味わいを存分に引き出すにはどうすればいいのか?
 
猪田さんはお湯のかけ方の試行錯誤繰り返します。
 

 
その結果辿りついたのがこの注ぎ方です。

自分なりに研究した結果、お玉でお湯を注ぐとき、くいっと手前に手首を回転させるようにしたんです。
 
まっすぐお湯を落とすんやなく、ひっくり返す。そしたら、お湯が勢いよく底へあたって、また上がってくる。
 
そこに早めはやめに次のお湯をかけていくと、サイフォン方式みたいに、お湯が回りながら落ちる。

この淹れ方を猪田さんは「ネルドリップのよさを生かしながら、サイフォン方式を取り入れたような形」としています。
 
くり返していくうちにだんだん狙い通りの味が出るようになり、飲み口は軽やかで、中身の濃いコーヒーを実現できました。

お湯の温度の考え方とお玉を使う利点

猪田さんは湯温を”粉の動き”と”お湯の落ち”と関連付けています。
 
狙い通りの味を出すお湯を注ぐのも、お玉を使うと都合が良いのだそうです。

コーヒーは生きもんやから、ゆっくりし過ぎるとコーヒーが縮んで重くなってしまうの。
 
お玉で勢いよくお湯を注ぐと、粉がのびのび動き回って味に広がりが出ます。
 
お湯が冷めるとね、落ちが遅くなるの。お玉で勢いよくやると、冷めんと熱いままかかる。そやからお湯の落ちが早い。早いからスッキリとした味になる。
 
お玉はちょうどよかったんです。

コーヒーに適したお湯の温度を猪田さんはこのように表現されています。

お湯は、沸騰しているお湯やないとあきません。そやけと、煮えくり返ってくたびれたお湯もおきません。これも落ちが遅くなる。
 
遅くなるとコーヒーがにごる。
 
ぐらっぐらっと2~3回、軽く沸いたくらいのお湯を、勢いよくかけるのがええんです。
 

このやり方で、三条店では15杯分のコーヒーを3分ほどで淹れることができました。
 
現在ハンドドリップではドリップポットを使うのが一般的ですが、時にはレードル(お玉)を使って淹れてみるのもよいのではないでしょうか。