こちらのコンテンツでは、いわゆる古代文明の中にコーヒーの存在を伺わせるものが見あたらない件をお知らせしています。
 
それではコーヒーに関する最初の伝説あるいは言い伝えは何なのでしょうか?

上のコンテンツで紹介した「珈琲一杯の薬史学」には、コーヒーの起源とされる伝説についても解説されています。一部を抜粋して紹介します。


珈琲一杯の薬理学
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2つのコーヒー起源伝説

コーヒーの発見に関する伝説は二つあります。それらはそれぞれイスラム教徒とキリスト教徒の間で語られてきました。
 
こう書くと、ものすごく古くから伝えられているイメージがありますが実際はそうではなく、コーヒーがイスラム社会からヨーロッパに伝わった13世紀頃に流布され始めたようです。
 
当時のコーヒーは宗教行事と密接に関わっており、祈祷や魔術で使われる貴重な秘薬としても扱われていました。
 
それぞれの伝説は以下のとおりです。

イスラム教徒による伝説

1558年に記されたアブダル・カディールの著書「コーヒー由来書 コーヒーの正当性に関する潔白の主張」に、13世紀頃の話として以下のような記述があります。

イエメンの祈祷師シェーク・オマールは、モカの王妃の病気を祈祷して治したとき、王妃に恋をしてしまった。モカの王は激しく怒り、オマールをウサブ山中に追放してしまった。
 
オマールが食べ物を求めて山中をさまよっていると、一羽の鳥が赤い木の実をついばんでいるのを見つけた。その実を煮てみたところ、えもいわれぬいい香りが漂い、煮汁を飲んでみると、疲れが消え去った。
 
そこでオマールはこの実の煮汁を使って多くの病人を癒し、元気を回復させた。モカの王はオマールの功績を認め、罪を許し、聖者としてモカへ迎えたのだとさ。

コーヒーのカフェインによる覚醒作用らしき描写がありますね。

キリスト教徒による伝説

1671年に、レバノンの言語学者ファウスト・ナイロニによって書かれた「眠りを知らない修道院」の中で、6世紀ごろの話として以下のように書かれています。

エチオピアのアビシニア高原に棲んでいた山羊飼いカルディは、ある日草原に放し飼いにしていた山羊たちが、昼夜の別なく激しく興奮しているのを見つけた。どうやら丘の中腹に茂っている潅木の赤い実を食べたらしい。
 
カルディは不思議に思い早速自分でその実を食べてみると、たちまち気分が良くなって全身に精気がみなぎった。このことを近くに居合わせたイスラム修道僧に話したところ、修道僧はさっそく僧院に赤い実を持ち帰り、仲間の僧たちにも食べさせたということだ。
 
するとそれからというもの徹夜の儀式の最中に居眠りする僧はいなくなったそうな。

これら2つはあくまで伝説であり、いわば昔話なので、研究資料として参考にするにはちょっと頼りないかもしれません。
 
しかし、話の舞台となっている年代頃には、コーヒー(らしきもの)が飲まれていたのは間違いなさそうです。